私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「闇の子供たち」

2008-10-03 21:34:31 | 映画(や行)

2008年度作品。日本映画。
貧しい農村から売られ、家族と離ればなれになり売春宿に監禁されている子供たちがいた。彼らは幼児性愛者の性の玩具にされ、生きたまま臓器を抜き取られていた。タイ在留の新聞記者南部は、NGOの女性職員とフリーカメラマンの青年の協力を得てその事実を暴こうと行動を開始する。
監督は「顔」の阪本順治。
出演は「スワロウテイル」の江口洋介。「NANA」の宮崎あおい ら。


この映画で描かれている内容はショッキングなものが多い。
タイのスラム街に生きる子供たちが人身売買の犠牲になり、虐待を受けている状況は過酷だ。それに先進国の買春の相手となるのは残酷としか言いようがない。子どもを買う外国人の姿は醜悪そのもので眉をひそめたくなる。
それら情報にはある程度知っている部分もあるけれど知らない部分も多い。
特にAIDSに罹患した子どもの扱いや、臓器売買などは特にひどい。てっきり臓器は肝臓や腎臓だと思っていたのに、心臓まで扱うというのはフィクションではなく事実なのだろうか。
真実のほどはわからないが、世界の矛盾のあらゆる部分がそこに濃縮されていることは確かだろう。

そんな矛盾に主として二人の日本人が立ち向かおうとする。
たとえば宮崎あおい演じるNGOの女性はどうだろう。彼女はあくまで正論を吐いて、その矛盾に立ち向かおうとする。
しかし正論のすべてが正しいわけではない。正論をふりかざすあまり、人の状況を忖度しようとはせず、怒る相手だってまちがえてしまう。正直なところ、その偽善っぷりに見ていていらっとするところがないわけじゃない。
しかしそれでも言葉じゃなく、体を張って実際にその正論を実行しようとする姿は崇高であり、勇敢だ。欠点も多いが、彼女のような存在がなくては、世界の矛盾に立ち向かえないだろう、ということを強く感じさせる。

もう一方の日本人である江口洋介演じる新聞記者は、事実をありのまま描くことで、世界の矛盾を根本から変えようと行動する。
しかし彼の場合は、若干単純ではないところが印象的だ。ラストの展開で、彼の行動のすべてにちがう意味合いが与えられたからだ。
だがだからこそ、臓器ドナーとなった少女を見たときの新聞記者の表情が深い悔恨を感じさせて、心を深くうつものがある。
それに最後のシーンで、新聞記事を周りに張った鏡を持ってくるあたりに心から震えてしまった。そこにある彼の絶望、あるいは自戒、苦悩、悔恨が本作に深い余韻と問題意識を与えていたと思う。

桑田佳祐の歌にはがっくりきてしまったし、ガンアクションは正直要らなかったし、テーマではなくプロットそのものに幾分つくりすぎの部分もある。だが、全体的にはすばらしい作品であったと僕は思う。
「ぐるりのこと。」「接吻」「おくりびと」といい、今年の邦画は収穫が多いが、本作もその収穫の一つであろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・江口洋介出演作
 「憑神」
・宮崎あおい出演作
 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」
 「好きだ、」
 「初恋」
・妻夫木聡出演作
 「クワイエットルームにようこそ」
 「ザ・マジックアワー」
 「憑神」
 「どろろ」
 「パコと魔法の絵本」

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